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東京スカイツリー®周辺の観光スポット 下町に寄ってみよう!
開業で賑わう業平橋周辺だけでなく、両隣の本所吾妻橋や押上にも注目の店がいっぱい。
さあ、ここからはツリーのお膝元で遊ぼう!地域を楽しめたらあなたも今日から江戸っ子。
長屋茶房 天真庵
都会の喧騒をしばし忘れ、一服の茶と蕎麦に憩う
あなたは時折、ふと空を仰ぎ見ることはないだろうか。膨大な情報量の中で何が正しく、何を選択すれば良いのかを、常に自分で決めなくてはならない日々。その中で少しずつ心が疲労していくことは誰しも経験があるに違いない。
「長屋茶房 天真庵」はそんな日常に潤いを運んでくれる、一服の清涼剤のような店である。
築70年の歳月を風雨に負けず耐えてきた木造家屋をそのままに、修繕が必要な部分だけを改装し、味わい深い空間を提供している。
「今の時代、物が飽和状態で溢れているだけに、余分なものを抱えている人たちが多い。赤貧の美学のように、シンプルな生活が出来たら一番いいんだけどね」
店主、いや庵主の野村栄一さんは、あのソフトバンクの孫社長と同郷。立ち上げに誘われ、パソコン業界で結果を出しながらも早々に退職し、パソコン関連会社を運営する傍ら陶器や絵画作家が憩うアトリエを提供するなど、世界が違う分野の人脈を築いてきた。
名誉や出世欲よりも、自分は自分でありたいと考えられる人な野村さんは結果、導かれるように知人の紹介で2007年にこの木造家屋と出会い、理想とする店をオープンする。
「これまで出会った方に、店のものはみんな作っていただいたんですよ。蕎麦を載せる器やカップは陶芸家の久保忠廣さん、二階の座敷には南條観山画伯の描いた「寒山拾得」。どれもが心で感じる作品かもしれない」
こうした中で味わう蕎麦やコーヒーは、いずれも修行の賜物。注文を受けてから毎朝焙煎している豆を挽いて入れるコーヒーは、とても香り豊かでやわらかい味。口に含むと余分な力みがスーッと消えていく。
「もっと美味しいコーヒーをお出ししたいんで、いずれは水が綺麗で美味しい川が近くにある山奥に越してしまうかもしれないよ」
そう、この店は野村さんの茶室のように静謐な空間なのだ。一期一会に感謝し、美味しいコーヒーを淹れてくれるこの店は、複数で行くよりも都会の喧騒をしばし忘れ、豊かな心を取り戻すために訪れる場であって欲しい。
ところで蕎麦といえば日本酒と江戸っ子は考えるが、「長屋茶房 天真庵」でも美味しいお酒を提供してくれる。もっとも酒は飲んでも呑まれるな、と言うように、長居して酔っぱらうのはご法度。キレイに頂きましょう。
食事の素晴らしさはさることながら、「長屋茶房 天真庵」にはもうひとつの側面がある。それが二階のアトリエを使った展示会だったり、ライブだったりと、芸術家たちに空間を開放している点だ。また、カルチャー教室も開かれているので、興味があったら一度問い合わせてみるといいだろう。
こうした点からもなかなか味わい深い、思わず用途に合わせて何度も通いたくなる場所である。
開店を告げる犬の肉球を染め上げたのれんには、
野村さんの愛犬で看板犬だったチワワの元気くんの手形が
オープンからしばらく常連客を癒してくれた看板犬の元気くん。残念ながら今はもうその姿を見ることは出来ないが、元気くんがお店の空間に残してくれた、優しい空気を感じることが出来るはず。今も彼の肉球をスタンプしたものを貼ると、効果絶大、なんて話が常連さんから聞かれるとか。たとえばコーヒー豆の入った瓶に貼れば、もっとコーヒーがまろやかになるという噂です。今ものれんで立派に看板犬としての役目を務めている元気くん。野村さんに、彼がどんな子だったのか談笑してみるのもいいでしょう。
ちいさな硝子の本の博物館
自分の店を持ちたい想いが強まった時、
スカイツリーを窓から望めるこの場所が空いたんです
初めてこの店を訪れた人は、誰しもカフェと信じて疑わない。それほど洒落た造りの店構えが可愛らしい、硝子製品を扱う街角の「ちいさな硝子の本の博物館」。
店主の村松栄理さんは昨年12月にこの店をオープンさせた。前職は浅草橋でビーズを扱う会社で店頭販売を担当。幼い頃から好きだったという。
「可愛いものが好きで仕事にしたんですけど、今扱っている硝子には興味がまったくありませんでした」
苦笑するのも無理はない。村松さんの父は大正11年創業の老舗「松徳硝子」を継ぐ三代目経営者。江戸硝子を世に伝えてきた社長のご令嬢である。
「硝子製品に囲まれて育ったせいか、あまりに当たり前すぎて興味がなかったんです。今、「松徳硝子」では“うすはり”グラスという飲み物をより美味しく飲むための商品を主流に製造していますけど、大正・昭和初めの頃は色つき硝子の製品が多かったんです。それが大量に倉庫に眠っていたので、販売出来る可愛いお店を持ちたいなと思い、見合う物件が空いたことでオープンにこぎ着けました」
年配の方には懐かしい品々も、若者たちには新しく魅力的なアイテム。リンゴ型のメモホルダーや小鉢型の箸置きなど、これからの季節には涼を呼んでくれそうな小粋なものばかり。
店名があらわす通り、ここは硝子の小さな博物館だ。店内に組まれた棚には「松徳硝子」の工場で大事に保管されてきた、硝子作りの写真集や専門書約750冊が収められている。中には当時の職人の手書きの製法メモ複製まで。これには元職人というご近所のお年寄りも大喜びだ。
「以前は工場に併設していたショールームで販売展示していたようなんですが、それだとその道を志している学生の方やご近所の限られた方しか観に来ていただけない。でもこの店なら通りがかりの方が気軽に立ち寄り、手作りならではの良さを知っていただけるのが嬉しいです」
珈琲飲みつつ拝見したいという無茶な注文をするお客様もいるのもなんだか頷ける、長居が心地いい硝子屋さんだ。
あのイチローのCMでお馴染み“うすはり”タンブラー
キリン「一番搾り」のCMで、泡の黄金比が美しいキンキンに冷えていそうなビールを、タンブラーでぐぃっと飲むイチロー。その姿に思わずビールが飲みたくなってしまうが、このタンブラーが実は「松徳硝子」の人気商品。硝子を芸術的なまでに薄くし、口当たりがよくなるよう、職人がひとつひとつ吹き上げたもの。このLLサイズがCMで起用されている。350mlの缶ビールを7:3の黄金比で楽しめて1575円(税込)は実にお値打ちです。
はらにわ小町
オーガニックポークや厳選された有機野菜にこだわり、
美味しくてキレイを実践する鉄板焼き店
今や食の安全については個人レベルで身を守らなくてはいけない時代。外食先でも安心して美味しいものを食べられたら…、という声に応えてくれるのが本所吾妻橋駅近くにある「はらにわ小町」。
モダンな外観から「和食のお店?」と思われがちだが、下町らしくわいわい仲間と楽しめる鉄板焼きがメイン。生産不可能と言われた岐阜のファームで育ったオーガニックポーク「あんしん豚」や有機&無農薬、減農薬野菜だけを使用。使うタレもすべて手作りオリジナルソースというこだわりからも、街の台所として実に頼りになるお店だ。
店主の高木徹さんは地元生まれ育ち。しかも先祖代々この土地に根を張り、「はらにわ小町」のある場所で商売をするのは高木さんで6代目というチャキチャキの江戸っ子一族だ。
「僕の前に叔父が建築事務所をやっていたんですが亡くなってしまって、それで土地が空いたため、2007年に開店させました。それまで青山のレストランや、スペイン料理の店で6年間修業をしてきて、自分でやるなら素材の味を活かした、シンプルだけど奥が深いものをやってみたいと思い、このスタイルに決めたんです」
仕入れている野菜ひとつひとつ、自分で畑通いして常に安全性をチェック。少しでも納得いかなければ取引先を変更するのもお客様への務めと心得ている。
「なので野菜の味が濃くて美味しい、と言われるのは嬉しいですね」
ちなみに開店当時は雰囲気のある一軒家の店として営業していたが、この土地の権利者である親戚から「マンションに建て直す」と言われ、2011年に今の1階店舗に。スカイツリーが建ったことだし、気持ちも新たにといったところです、と高木さん。ひとりで切り盛りしているだけに、逆にお客様へ行き届くサービスが出来るとポジティブに捉えている。
ところでメインである鉄板焼きはもちろんだが、数ある一品料理やランチメニューも定評がある。そして特筆したいのは自慢の料理に負けないデザート。中でも卵をたっぷり使ったスペイン風濃厚プリンは、これまで食べていたプリンは何だったの!と叫びたくなること請け合いだ。甘さ控えめなのに深いコクと誘惑の舌触りを是非、ご賞味あれ。
店がある吾妻橋は江戸時代、「原庭町」だった!
可愛らしい店名が印象的な「はらにわ小町」。どこからこの名称になったのかといえば、元々吾妻橋のこの場所は「中之郷原庭町」と呼ばれていたからなのだそうだ。そして高木さんの曾祖母が若い頃、「小町」と呼ばれていたことから由来する。するとかなりの美人だったのでは?と尋ねれば、「さすがに生まれる前にはもう亡くなっていたし、写真も残ってないので確かめる術はないです」と笑った。ちなみに今の吾妻橋になったのは、関東大震災後の区画整理からである。
スパイス・カフェ
木造アパートの利点を活かした個性的な空間で、
至高のカレーと手作りパンを提供し続ける
ある意味、この「スパイス・カフェ」という店は、押上十間橋通りのランドマークかもしれない。
なぜなら東京スカイツリーについて特集した雑誌や新聞、テレビとあらゆるメディアで見かけないことがないからである。実際、私が取材で訪れた日はまだスカイツリーが開業前にも関わらず、この店が目当てでわざわざ遠方から来た、という方がほとんど。
そのため、ランチタイムは事前予約が必須でもある。
店主の伊藤一城さんは待ち時間が読めないという点で、お客様に負担をかける行列をよしとしない。
訪れた人が気軽に食事とひとときの時間を楽しんで欲しいという考えの方だ。
「この店は実家の隣に建つ、築45年が経過した元は木造アパート。しかも十間橋通りから脇に入った住宅地にあるため、路面店ではない点で立地条件はよくない。それでも数々の海外修業をしてきて金銭的に余裕がない状態で店をどこかに借りるのは難しかった。そんな時、建築家の知り合いから、間取りは通常のアパートと違って一風変わっているところが面白いし、造りがしっかりしているから改築すればかなり独創性のあるものになると言われ、決断しました」
まるで避暑地に佇む歴史深き木造家屋に生まれ変わったこの店は、日本人なら誰しも惹かれてやまない。そんな「スパイス・カフェ」で出す主役のカレーは、伊藤さんが南インドで衝撃を受けた味からインスパイアされたものである。今、日本人がお世話になっているインドカレーの店は、実のところ北インド。まだ日本で南インドのカレーを出す店はわずかなのが実情。つまりは大多数が未経験の味を、日本人でも違和感なく口に出来、美味しく頂けるよう調整している。
「そこがスパイスのさじ加減です。北インドは香りで味わうスパイス文化なので、日本のような味覚で味わう発酵調味料や出汁文化ではないんです」
独創的な店構えと堅実な仕事ぶりが訪れた人たちの評判を呼び、一切の宣伝活動をしなかったのにいつしか地域の人気店に成長した。スカイツリー開業以降より入店が難しいかもしれないが、比較的入りやすいディナータイムが狙い目。この機に噂のもうひとつのランドマークに是非、立ち寄ってみてはどうだろう。
今も店を休業し、海外修業を惜しまない
日々是精進という伊藤さんは、今も年に一回は必ず海外で料理修業に出かけることにしている。もちろんその間、お店は休業。数週間に渡ることは当たり前なので、食べに行こうと考えている時はホームページ・チェックをしておくのがいいかもしれない。伊藤さんの修行は現地のエージェントを通じ、その地の店で料理人として普通に勤めるだけに、学べることも多いのだとか。こうした飽くなき探求心がスパイス・カフェのクオリティーを支えている。